ふるさとの空に高々とロケットが打ち上げられた。
平成28年8月1日の朝、青森県七戸町は雨空が晴れ渡り、緑のサッカー場は無風状態のロケット日和の朝だった。今日は七戸小中学生の第1回水ロケット大会である。
東京七戸会の会長である私は、小又七戸町長の「子どもたちの夢を育む科学教育の強化」に呼応して、小中学生の水ロケット大会を提案していた。私が代表を勤める日立理科クラブのスタッフ6名の支援を得て、大会現場に乗り込んだのであった。
クリーム色の大型ワゴン車2台から、ロケットの材料を卸し、水ロケットの発射台2台ほかが緑の芝生に据えられた。日立の匠たちが七年に渡り工夫改良を加えた腕自慢の部材・機材であった。
小中学生30名、その父兄20数名、七戸からは町長、議会議長をはじめ議員団、教育長、七戸理科クラブ実行委員長およびスタッフの若い補助員20名強など、町を上げての動員であった。
開会式で、町長さんが「子どもたちの科学教育を進める町」の宣言し、次いで来賓代表の私は「七戸小学校、中学校の卒業生です。中学生の時、電気を学び、79歳の今日まで電気を仕事として生きてきました。」と挨拶した。皆、びっくりしていた。
サッカー場の隣りにある七戸中学校の木工室で、水ロケットの製作が始まった。ロケットの部材はあらかじめ加工されているため、子どもたちはスタッフの指導で汗を流しながらも、何とか組み立てていた。
よく飛ぶロケット作りは、①翼の取り付け、②トップコーンの重りの挿入、③ロケットのトップからノズルまでの心出しが重要だと、スタッフたちが飛び回って指導していた。時間に追われ、汗を流して、懸命に作ったロケットであったが、「何故水ロケットが飛ぶのか」理解させる、理解するゆとりがなかった。
スタッフによるテストロケット5基が打ち上げられ、今日の打ち上げ空気圧は6kg/cm²、発射角26度が決まった。
ゼッケンナンバーを付けた選手が入場する。リオ五輪に負けない厳粛さだ。手にはマイロケットを持って勇ましい。ウグイス嬢の5,4,3,2、発射のカウントダウンの声に皆、大声を合わせ打ち上げが始まった。どのロケットもきれいな放物線を描いて130~150m飛んだ。
皆、順調であった。ついに七戸小3年生が最長距離156.5mを達成した。大歓声があがった。1基だけロケットが上空で方向を失い回転し、100数mに落下した。紙粘土の重しが挿入されていなかったのであった。
いよいよ七戸中学生4人の出番となった。さすがに中学生は自力で自転車用の空気ポンプを押した。しかし、先行の3人は150m前後の飛びで、小学チャンピオンに及ばなかった。中学生が小学生に敗れるか」と観衆の溜息が漏れた。最後の4番手の中学生が力強くポンプを押し、発射レバーを強く握った。勢いよく飛び上り最長かと観衆が立ち上がった。
間もなく「只今の記録、156.5m」と放送されるとどよめきと同時に大きな拍手が湧いた。
小学3年生と中学3年生が同飛距離の優勝だった。
七戸中学校の校長先生が「ほんとによかった」と喜んで生徒の肩を叩いていた光景は記憶に新しい。
表彰式が行われ、沢山の賞品がくばられた。
また、宇宙航空研究開発機構から贈呈された「H-ⅡBロケット打ち上げ写真」を全員に配ると子どもたちは宇宙へ夢を飛ばして大喜びだった。子どもたちは、退場口で自分の飛行距離が記入されたマイロケットを受け取り、「またやりたい」の言葉を残して帰って行った。
日立理科クラブの7名が機材を車に撤収し帰途に就くまで、町長さんが残っておられて、皆と握手していたのが印象的だった。ふるさとへの貢献は青空のように実にすがすがしかった。